- 作者: 谷村志穂
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 1997/08
- メディア: 文庫
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でも恋愛に関してどうしてこうも研ぎ澄まされなければならないんだろう、という疑問がどこまでもついて回る。どうしても違和感が消えない。こんなことをしていたら生活が面倒でしょうがないと思われるからだ。なぜわざわざそんな面倒なことを主人公はしているのか。力ずくで原因を絞り出すと、この主人公は生きているという実感がすごく希薄なのではないかということになる。そしてその希薄さに少しでも実体を与えるためにここでは苦しむことが選ばれているように見える。苦しまないことには生きている気がしない、そんな心の状態に主人公があるとすれば、少なくとも本人にとってはこんな面倒な生活にもそれなりの意義が与えられるように思われる。
実はそういう心の状態は僕にも経験がある。どんな感情でもいいからとことんまで掘り下げれば自分の核みたいなのが見つかり、希薄な生活実感が一気に生き生きとしたものに生まれ変わるのではないかと思われていた。それにはとりあえず苦しみが手っ取り早く、見かねた他人がやめろと言うのも聞かずに自分なりに苦しみ続けた憶えがある。そういうときには生活より苦しみの方が上位に来るような倒錯した価値観が汗ばんだ手で握りしめられている。でも今ではそういうやり方を若さの鼻持ちならない部分のひとつだと考えている。いい気なものだと思う。同情も共感もしない。
というわけで今回もシメはお詫びです。ほんとにすいません。