指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ミスチルとサザンのニューアルバムを聴いている。

I LOVE U

I LOVE U

キラーストリート (通常盤)

キラーストリート (通常盤)

Mr.Childrenのニューアルバム「I LOVE U」とサザンオールスターズのニューアルバム「キラーストリート」をiPod Shuffleに入れて聴いている。
電車の中の音漏れというのがすごくすごく気になるたちなので万が一にも自分がその原因にはなりたくなく、外回りのときも電車の中ではイヤフォンをはずすようにしている(もちろん本体の電源も切っている。)。だから聴くことができるのは駅から目的地まで歩く間の数分からせいぜい十数分、それと通勤にかかる片道5分程度の間だけだ。アルバムを一枚聴き通すのに一週間近くかかることもある。それでも最近やっとすべての曲が耳に残って来た。その段階で受けた個人的な印象ではどちらもそれほどすばらしいアルバムとは思えない気がする。
ミスチルの方は、最初の曲「Worlds End」の「りょきゃっき」という言い方に度肝を抜かれた。前後の文脈からこれは旅客機のことと思われるが、それなら読み方は「りょかっき」だと思う。少なくともATOKは「りょきゃっき」を意味のある日本語には変換しない。桜井君はたまにこういうことをやる。たとえば「机上の空論」と言えばよいところを「卓上の空論」と言ったりする。よくわからないんだけど狙いだとしたら意図が皆目つかめないし、間違いなら周囲のスタッフとかが何とか言えばいいのにと思う。この曲は曲としてはよくできてると思えるだけにこういうなくもがなの違和感を呼び起こすのはもったいない気がする。
あとはまあ僕の聴き方にも問題があるのかも知れないけどいつものミスチルのアルバムだ。最後から二曲目の「隔たり」は歌詞がはっきり聴き取れるまではポール・マッカートニーの「The Long and Winding Road」を下敷きにしてるな(盗作という意味ではなくオマージュだと思う。)、と思って聞き流していたが、あるとき歌詞の意味がはっきりとれたことがあってそのとき僕は表参道を歩いていたんだけど、ぐっと来て涙がこみ上げそうになった。セックスのときに相手の女性からコンドームをつけないでくれと言われた男性の気持ちがモチーフになっている。女性側からのこの言葉の意味をおそらく語り手である男性は正確にはつかみかねている。そして相手を蜘蛛に自分をそれにつかまる羽虫になぞらえたりする。でも相手の中に強い思いがあることは感じ取っていて、隔たりを取り去った後の相手の感触を肯定しそれを受け入れようと決心する。わずかに自己愛の匂いがするけど、そんなことを相手から言われる状況ののっぴきならなさと不可解さを、そのままに受け入れてしまおうと決める心の動きがよかった。自分の体験に引きつけて言うとまだいろいろ言えそうな気もするけど、これ以上何か言うと言い過ぎになってしまうと思えるような、全体のぼかし具合もいいと思う。
キラーストリート」はまあいいんだけどちょっと物足りない感じだった。前作の「さくら」というアルバムが僕はものすごく気に入っていたんだけど、そこにあったサザンらしい臭みのようなものが洗い流されている気がした。それぞれの一曲目を聴き較べてみるとよくわかると思う。前奏は似たメロディーなんだけど、その後の展開の力強さに圧倒的な差がある。実は「TSUNAMI」というシングルも大ヒットした割には僕にはどこがそんなによいのかわからなかった。「さくら」から「TSUNAMI」に線を引っぱるとその延長に「キラーストリート」が現れるのかな、といった感じで、本線をがんがん行くサザンオールスターズを僕は遙か手前の引き込み線から恨めしげに眺めている、ということになるのかも知れない。