指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

いとしのエリー。

忘れないと誓ったぼくがいた

忘れないと誓ったぼくがいた

読み終えた。サザンオールスターズにとっての「いとしのエリー」だと思った。あるいは作者ご本人はいやがるかも知れないけど、村上春樹さんにとっての「ノルウェイの森」だと思った。「いとしのエリー」も「ノルウェイの森」もそれまでの独自の路線から一歩引いたところでリアリズムの方向に重心を移した作品であることが共通していると思う。流行歌と小説に共通するリアリズムっていったい何だとつっこまれるとうまく定義できないけど、とりあえずまあそういう感じだ。
他者の死をいくつかの断片に切り分けてその中のひとつの部分を強調し、死でないのに死よりも残酷な事態をつくりあげて見せた。あえて言えばそこがこの作品の眼目だと思う。あえて言えば、と言うのは、そんなことより作者の中の文体を変えたい思いの方がずっと強いように思われるからだ。どういう結果になろうとも作者はこの文体で一作書きおおせたかった。作者の筆の迷いのなさはそういう強い意志を感じさせる。
僕は「ラス・マンチャス通信」がとても好きだけど、作者の思いもちょっとだけ想像できる。だから「忘れないと誓ったぼくがいた」での試みも割と納得できる気がした。とりあえず、売れるといいと思う。