(承前)
どのジャケットも気に入らなかったので家人がとりあえずスタジャンを見つけようと提案した。それで探し始めたのだけどなかなか見つからない。一着だけあったのが身頃が黒で袖が白系のものだった。店員さんと家人の強い勧めで試着してみると、これが自分でも驚くほどよく似合う。スタジャンに袖を通したのはそれが初めてだったので、似合うかどうかすら知らなかったのだ。家人も苦笑しながら同じ意見を口にした。でもそのたった一着のスタジャンを買うのは見送った。袖にたくさんのエンブレムが貼り付けてあるからだ。デコラティブ過ぎる。でもその点さえクリアできれば、もう絶対にスタジャンを買おうと心に決めた。
心当たりはあった。ヴァンヂャケットだ。(マクベスという選択肢もあるけどマクベスなんて今もあるのかどうかわからなかった。)Jプレスがスタジャンの販売をやめた今最後の砦だがそれでも可能性はゼロではない。でもどこにショップがあるかわからない。時間が尽きたので僕は会社へと戻り、帰宅する家人がサイトを探してくれることになった。
その夜、僕のディスプレイには輝かしいヴァンヂャケットのスタジャンが映し出されていた。若い頃はやや気恥ずかしく思えた例のバックプリントもこの年になってみれば別に問題とはならないように思えた。値段だって非常識なほど高くはない。即決。オンラインで発注した。
届いたそれは買ったばかりのグローブのようなかぐわしい革の香りがした。色といい形といい申し分なかった。それが20年間欲しいと思い続けたスタジャンを初めて手にした瞬間だった。