指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ベランダで靴磨き。

相変わらず仕事が忙しく疲れがとれないので本来なら僕が分担するべき休日の子供の相手を今日も家人がしてくれることになった。最近買った電動機付きの自転車でふたりが出かけた後、思いついて靴を磨くことにした。明後日の月曜からまた小さなイベントを開くのだが、今年はクールビズっぽく行こうとネクタイはしなくていいことに決まった。ネクタイをしないとなると普段外回りではいているズボンや靴では少々重くてバランスが悪い。ズボンはチノパンでいいとすると合わせる靴は冬はワラビーブーツ、春と秋はアディダスのスーパースター、夏はスポーツサンダルだが、さすがに仕事でアディダスはまずいだろ、と思うと何を履くか迷う。デッキシューズがよさそうだが、浅めのスリッポンは僕の足の形ではうまく履きこなせず持っていない。モンクストラップでも新調するかと思ったときそうそうあれがあったと思いついた。サドルオックスフォードだ。
その黒とグレーのコンビのリーガルのサドルは、二十歳のときどうしても欲しくて丸井の分割で買った。もう二十三年前のことだ。二十三年前の靴は今も履けるか?これが結構履ける。ここ何年かこそ靴入れの中で文字通り埃をかぶっていたが、それまではかなりきちんとした手入れをしてきた。傷も目立つししわも結構あるけどラバーソウルはそれほど減っていず履き心地も悪くない。もちろんコンビの靴なんて今時誰も履いていないかも知れない。でも僕はサドルという靴がとても気に入っていたし今も気に入っている。そう考えると好みというのは結構変わらないもののようにも思える。ブレザーにボタンダウンにチノにサドルというスタイルは二十数年経った今も僕の心を惹きつける。ブレザーのかわりにスウィングトップでもスタジャンでもダッフルコートでも何も無しでもいいし、サドルのかわりにローファーでもモンクストラップでもワラビーでもスニーカーでもかまわない。好みが昔とまるで同じだ。まったく変わっていない。
それでサドルをベランダに出し、埃を丁寧に払ってから磨いた。手に力を込めるせいで数分後には汗が出て来た。日がかげって風が吹き始め汗を冷やした。その間も集中して磨き上げた。靴は自分で磨いて初めて自分のものになる気がする。毎日のように靴を磨いていたときにも同じことを思った。
今家人から連絡があり、リーガルのシューポリッシュが切れていたので買って来てくれるよう頼んでいたのだが、シューポリッシュというものは今では扱っていないそうだ。シューポリッシュがない?靴磨きの方法が進化してシューポリッシュを無用のものにしてしまったのだろうか。僕は二十数年前とまるで同じ方法で靴を磨きたいだけなんだけど。