指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

いやいやいや、どーなのよ、これ。

子供たち怒る怒る怒る
単行本で出たときいいタイトルだと思ったのを憶えていたので文庫化されたのを機に手にとった。それで読み進むうちにだんだんテンションが下がって来て、最近は解説のついていない文庫も多いけどもしこの本に解説がついていたとしたらその解説を書いた人はどういう論旨でこの作品を誉めるんだろうと、意地の悪い好奇心を育みつつ読み終えた。うれしいことに解説がついていたので読んだが解説もひどかった。
どこにも触れられてないけどもちろんこれは子供たちの無垢について書かれた短編集だ。無垢なのにいわれなく断罪され罰を受ける子供たちからの告発と力の行使が描かれているとしか言いようがない。作品自体よりよくできているタイトルからしてもそのことは明らかな気がする。でもこの文体ではちょっとどうしようもない。この作者がこの後三島賞をとるとはにわかに信じられないほど散漫な文体だ。同じ児童虐待を扱うにしてもたとえば橋本治さんの「ふらんだーすの犬」とこの短編集の任意の一編を比べてみればいい。目指すものが違うという言い逃れは利かない。なぜなら橋本さんの方がより遠いところを目指しているからだ。
僕には六歳の子供がいて日々彼と戦っている。普遍的ではないにせよ、六歳児のリアリティーに一番近いところにいると言っていい気がする。短編「生まれてきてくれてありがとう!」は六歳児が主人公(語り手は後年の本人かも知れない。)だが、これが普遍的な六歳児なら親御さんたちは安心して子供たちに海外旅行を許すのではないかと思う。それくらいに見誤った像が描かれているように思える。まあそこはまあいいんだけどね、それだけなら。