- 作者: ポール・オースター,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/10/31
- メディア: 単行本
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閑話休題、ディオニュソス的とアポロ的という対立概念は混沌と秩序、という言い方ではちょっと違うんだけどまあだいたいイメージとしてはそれくらいの違い方だと言えそうな気がする。エネルギーとその制御方法と言った方がいいか。ディオニュソス的な圧倒的な生命力をアポロ的な形式が統御して初めて何かが生まれる、とそんな感じだったと思う。
「幻影の書」を読みながら「悲劇の誕生」を思い出したのは、自分の想像力を統御する作者の手並みが見事だったからだ。ストーリーは奇想天外でおそらくこの文体の中に置かれなかったらあちこちにほころびが見えてしまうと思われる。と言うか、ディオニュソス的なものとアポロ的なものが果ての果てのぎりぎりに引き絞られた場所で切り結ぶ光景がこの作品だと言っていい。先走る想像力をどこまでも追尾してページに縛り付ける構成力。そのダイナミズムが物語本来の読む楽しさを高いレベルで維持している。オースターの作品の中でもおそらく一番と言っていいおもしろさだった。ちょっとミルハウザーっぽかったりしたけど。
とにかくおもしろい作品が読みたければおすすめ。