指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

今年読んだ本。

思いついて調べてみたら今年は44冊についてここに感想を書いていた。感想を書かなかった本が5、6冊あったと思うので、年間50冊前後読んでいることになる。大体週一冊読むか読まないかのペースで去年よりは多いけど一番読んでいた頃と比べると三分の一程度だ。まあいろいろ言いたいこともあるけどこれが現状でどうしようもない。
それで去年のベスト5から一歩進めて今年はベスト10を選んでみた。ただし去年も書いた通り自分以外には大して意味のないランキングで申し訳ない。新刊をこの三倍読んでいたらたとえ好みのバイアスがかかっていたり読みの深さに問題があったりしてもそれなりの意味も出てきそうな気がするが、この量ではどんな意味でも読者の参考になるようなランキングとしての根拠は持てないだろう。残念ながら今年も自己満足に終わると言っていい気がする。

1位

ザ・ロード

ザ・ロード

だってもうこれっきゃないっしょ。読んでから少し経って別の言い方を思いついたら、親が我が子を思う気持ちを残酷な程ぎりぎりまで分析して突きつけて来る作品、ということになっていた。それはほんとは無根拠なのかも知れないんだよ、と。でも無根拠でも親は子供を守り続ける。根拠より守ることの方が大切だからだ。そして無根拠と守る行為との間に飛躍を隠しているからこそ、親は嘘をついていてだから子供より弱い存在なのだ。親は嘘つきだ、でも嘘をついてでも子供を守りたいのだ。

もう死ぬってときが来たら教えてくれる?
それはどうかな。死にやしないよ。 (id:jasperさんの引用からの孫引き)


2位

ばかもの

ばかもの

3位の作品を読んだ段階では2位はその作品のはずだった。その後読んだこの作品がその作品を抑えて2位に入った。なんて言うか、人が人を思いやる気持ちの美しさはどこまで行けるんだろう、この作品よりもっと先まで行けるんだろうか、と思った。禅問答みたいだけど、特に新刊に関してはストーリーに触れないのが主義なのでこのあたりで勘弁していただけると幸い。


3位

ディスコ探偵水曜日〈上〉

ディスコ探偵水曜日〈上〉

ディスコ探偵水曜日〈下〉

ディスコ探偵水曜日〈下〉

テーマは「カラマーゾフの兄弟」にもあったし、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」も同じだし、1位の「ザ・ロード」も同じと言えば同じだ。でもそれをスローガンとしての「SAVE THE CHILDREN」にしてしまうと違ってくる。第一この作品はそうしたスローガンでくくれるほど単純な話ではない。ただ長いページを費やして最終的にある種の悲壮な徒労感を描くという手法はありだ思う。


4位

沖で待つ

沖で待つ

絲山さん二作目のランクインですが今年の作品じゃありません。え、「ラジ&ピース」じゃないんですか?いやあ「ラジ&ピース」もよかったし、「スモールトーク」も「ダーティーワーク」も「エスケイプ/アブセント」もよかったんですけど、タイトルが「沖で待つ」ですよ?「沖で待つ」ってよくないすか?だいたい沖に出てまで何かを待つ必要があるでしょうか。そこはきっと軽く黄泉なんですよ。


5位

いつかソウル・トレインに乗る日まで

いつかソウル・トレインに乗る日まで

この作品のににそれほどふるえたと言うと、この作品あきらかに先達へのオマージュとしか思えなかったからだが、そういうのって後から考えるとあまりいい読方じゃないかも知れないのでもっと別の言い方を考えると、源一郎さん版「ららら科学の子」と言えるような気がする。少なくとも矢作俊彦さんのその作品にインスパイアされてることは確かなように思われる。


6位

宿屋めぐり

宿屋めぐり

「告白」では先行する物語に題材が取られていたけど、これはそういうものを取っ払ってある分だけ純度が高い。作者にしか使いこなせない道具立てをフルに動員してつくられた世界なので、入って行けないと入って行けないかも知れない。個人的には入って行けた気がする。でも一度入ると出られない。このお話には終わりが無いからだ。


7位

水域 (講談社文庫)

水域 (講談社文庫)

ここには物語のおもしろさ以外何も無いかも知れない。ただそれしか無いことがこの作品の優れたところなんだという気がする。「アド・バード」と読み比べるとそれがよくわかる。読後の喪失感と哀しみが圧倒的。尚、これも今年の新刊ではない。


8位

りすん

りすん

これを読んだときの部屋がだんだんと収縮して行って空気が薄くなるような息苦しい感じが忘れられない。言葉を使いこなしているようでいて、僕たちは言葉に取り囲まれ常に言葉からの脅威にさらされている、そんな気がした。


9位

楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

近代が長い時間をかけて苦労してすり減らして行ったものをポストモダン(つかなんつーか、とりあえず近代以降のもの)がまた苦労して取り戻すお話、と書くとすごく類型的になってしまうが、骨格としてはその通りで、こういう視点は南米の作家がヨーロッパを批判するときに持ち勝ちと書くとまたも類型的。でも類型的にしか書けないのは僕のせいなので作品はすごく複雑でおもしろい。年の後半に読んでいたらきっともっと順位が上だったはず。


10位

蝶のゆくえ (集英社文庫)

蝶のゆくえ (集英社文庫)

「ふらんだーすの犬」は本当にすごかった。それから結婚した女性がすごく孤独に描かれているのに驚いた。おそらくそうなってしまったらもう取り返しはつかない。その取り返しのつかない感じ、救いの無い感じが読後感として深く深く残った。これも今年の新刊ではない。

その他で印象深かったのは「AMEBIC」と「ホルモー六景」と「真説・外道の潮騒」、それに「風の中の子供」など。期待はずれだったのは、まああえて書かない。