指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

マジでやばい。

死霊(1) (講談社文芸文庫)

死霊(1) (講談社文芸文庫)

カラマーゾフの大審問官に触れようとしたとき、これは埴谷雄高さんの「死霊」の序文を読み返さなければならないと思って書棚を探したんだけど見つからなかった。それで今日文庫版を買ってきた。埴谷さんは常々文庫になるのはそれなりに受け継がれて行く価値のある作品だけで、自分の作品はそれに値しないと文庫化を固持していたいきさつがあったとどこかで読んだ憶えがある。作者がそこまで固持した作品を文庫化する判断を誰がしたのか知らない。埴谷さんは子供を産むことを罪だと見なし、奥さまにも何回か堕胎させていたはずなのでおそらくお子さんはいない。奥さまも埴谷さんより先に亡くなっているはずだ。だからどう見てもこの文庫の出版は、故人の遺志に反した判断を誰かがしなければ成り立たないものとしか思えない。それを知りつつ文庫版を買う自分も埴谷さんの遺志に背いている訳だ。
つか、買った以上自分は「死霊」を読み返すつもりでいるんだろうか。だとしたら少しは救われるかも知れないけど。理由はよくわからないながら、読まずに済ませられたらその方がいいんじゃないかとどこかで考えている。今の僕はドストエフスキーをもう少しだけ読み続けたい。「白痴」と「悪霊」を。いやあ、でも買っちゃったから「死霊」を読むか。すごく興味を惹かれるんだけどあまり読みたくない。マジでやばい気がする。やばい本だという気がする。