指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

本当に読了。

カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫)

この本には訳者の「ドストエフスキーの生涯」というなんて言うか評伝みたいなのと「解題」が収録されていてそれらを全部読み終えたのが今日だった。お前解説とか読まない主義だったんじゃないのかと言われるとその通りなんだけど、これだけ古く今でも研究が進んでいる作品に関しては食指が動く。
たぶんカラマーゾフを含めたドストエフスキーに関する研究というのはずっと進み続けていて、二十年前に読んだ解説とは明らかに違ったニュアンスが含まれているようだ。そういうのがわかっておもしろかった。でもどんなに研究が進んでも、誰かが、たとえば自分の子供が、初めてカラマーゾフを読むときの助けになるとは思えない。そういう意味では研究者と市井の読者では自ずから意識が異なる。訳者はこの作品に象徴層と物語層と自伝層があると言うが、それは訳者がこの作品を解釈する上で必要だった訳者にとっての便宜的な区分であって、それって少しもわかりやすくないんですけど、と思った。少なくともその三層に従った読み方を、自分の子供がしなければならない義理はない。その三層が訳者の善意から生まれたものだとしても、善意は地獄への道だぜ、と、私淑する人の言葉を借りて返していい気がする。
僕が好きな書評を書く人たちはこういう方法をとらないだろう。彼らは「学者」ではないからだ。