指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ハイブリッドな小説。

少し前に片岡義男さんにお目にかかり話をする機会があった。片岡さんの作品は高校生の頃にほんの少し読んで、後は何年か前に出た「日本語の外へ」という評論集を読んだだけだ。ほとんど読者とも言えない。だからお目にかかっても仕事に関する話しかできなかった。もっともたとえ片岡さんのファンだったとしても作品の話などするべき立場ではなかっただろう。そこは片岡さんの作品とも文学ともまるで縁のないステージだったし、僕はひとりのビジネスマンとして参加したに過ぎなかったからだ。
それでこの前ブックオフに行ったとき、とりあえずタイトルを知ってるのをと思ってこの本を買った。一編目から大変印象的な作品が続いた。おそらく片岡さんはアメリカの小説の文脈の中に、日本語で書かれた小説を取り込んでしまいたいモチーフをお持ちの気がした。それがたとえばヘミングウェイの短編を連想させる原因となっている。でもヘミングウェイほど硬質になってしまわないのは、それでもそうした作品を日本の風土に根付かせたいというある種のサービス精神をお持ちか、あるいは生理的に日本的な情緒を切り離しきれないかのどちらかのように思われる。いずれにせよそれらはハイブリッドな小説のような気がした。どちらを欠いても作品が成り立たないふたつの要素が、どの作品の中でも拮抗している。
でもそれはこれからも黙って自分ひとりで握りしめておくべき感想だ。近くまた片岡さんにお目にかかるかも知れないけど、その作品を話題にする気はない。