![あの影を愛した (新潮文庫) あの影を愛した (新潮文庫)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/515vUZ4Ck-L._SL160_.jpg)
- 作者: 片岡義男
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1991/08
- メディア: 文庫
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正直に言うと個人的にはこの手の女性は苦手だ。たとえどんなに魅力的だったとしても自分の偏狭な世界に傷跡一つ付けずにすり抜て行ってしまうタイプだと思う。複数のボーイフレンドがいてその誰とも恋愛関係にはない。おそらく肉体関係もない。でも定期的に彼らと会ってそれなりに楽しい時間を過ごす。誰からも一定の距離を取っているようでいて誰かといるときには親密な雰囲気をつくり出すことができる。感情にぶれが無くクールだ。これまで読んだ片岡さんの小説から言うと珍しいことに、命に関わりかねない事件が起こるけど、彼女はクールなままで取り乱したボーイフレンドのケアをする余裕を見せる。そんな彼女が愛するのはスイミングプールの底に映った自分の影だ。それが意味するものは様々に解釈できると思うけど、彼女が自足していることを暗示しているととると個人的には納得が行く。彼女は本当には誰も求めてなどいない。そしてそういうウェイ・オヴ・ライフを片岡さんはここで肯定的に描いているように思われる。
ところでほとんどの章の始まりに気圧配置の描写が置かれ、天候が周期的に変わる春の初めの不安定さの中でお話が進んでいることが強調されている。それに注意を払いながら読むと彼女の安定感が一層際立つしかけになっている気がする。彼女はタフな全天候型仕様なのだ。それは確かに、ひとつの強さとして肯定的に捉えられていい。個人的には苦手だけどね、繰り返しになるけど。