指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ごめんな。

昨年の夏に家人と子供が福岡に帰省した際、義兄が子供を福岡ドームソフトバンク・ホークス戦を見に連れて行ってくれた。これが相当楽しかったらしく、子供はホークスファンになって帰って来た。ところが学校ではどうやらジャイアンツファンが多いらしく、ホークスはホークスとして子供はジャイアンツにも興味があるみたいだ。今年はプロ野球のTV中継が昨シーズンに輪をかけて減ってしまったけど中継があるときには見ている。小笠原選手のファンだ。
東京ドームに年間シートを持っている人が仕事関係にいて、ちょっとしたやりとりがあったことのお礼としてお礼としては過分だけど今日のジャイアンツ戦のチケットを二枚くださった。子供にそのことを教えるととても楽しみにして何日か前から指折り数えていた。
今日僕は早退することにして、夕方会社まで迎えに来た子供と一緒にドームに向かった。後楽園で地下鉄を降りジャイアンツカラーのタオルがもらえるチケットも一緒にいただいたのでそれをもらいに行った。それから長い列に並んで持ちもの検査を受けた後チケットのもぎりの係員のところへ行った。はやる気持ちでチケットを差し出すとそれを検めた係員が言った。これは6月20日分のチケットですけど。
二枚いただいたチケットは、一枚は確かに今日の分だったがもう一枚は今週の土曜の巨人vs.ロッテ戦の分だった。ひとりなら入れるけど、ふたりは入れない。子供をひとりで入れるか?でもそれは明らかに無理だ。これをくれた人はもう何年も前から年間シートを持っていてそれは二席でだから全然不正ということじゃないから子供とふたり入れてもらえないだろうかと交渉してみたが、その年間シートの持ち主が二席持っていることがここでは確認できないので駄目だということだった。もちろんそれはその通りだ。今日の分のチケットを持っていない者を入れろと言う方が無理なのだ。
子供は泣いた。僕は誰かに対してこれほどひどいことをしてしまったのはいつ以来のことだろうと思った。少なくとも今まで僕が子供に対してして来たことの中ではこれが最悪と思えた。すべてのお膳立てが整った後、目の前にドームへの入り口が見えているところでの門前払い。様々になだめて少し落ち着いたところで、じゃあ近い日程のジャイアンツ戦のチケットを買って帰ろうと提案し子供は少し笑みを見せた。チケットを買い、一蘭のラーメンを食べ終える頃には子供はかなり元気になって、パパも誰も悪くないよとこちらを労る余裕を見せた。
チケットをくださった方への対応も気になる。間違ったチケットをお返ししないと、今日の我々とまったく同じ事態に今週の土曜、どなたかが遭遇する可能性が高い。でもそのチケットをお返しすると、今日子供と僕がどれほどがっかりしたかが、もしかしたら必要以上に深刻なイメージをともなって伝わってしまう。お礼としていただいたものがかえってものすごいあだになってしまったとわかったら、先方もかなり気になさるだろう。僕としても子供を傷つけてしまった状況全般に対する後悔はあるけど、それを先方にまで負わせたいとは思っていない。それとこれとは別の話だ。大体チケットをいただいた時点でちゃんと確認しとけばこんなことにはならなかったんだから。
夜、おやすみを言う声に元気がなかったのが気になって、ベッドまで子供の様子を見に行ったら、リラックマの抱き枕を両手で抱えながら大粒の涙で、静かに泣いていた。すごくすごく真剣に、何遍も何遍も謝った。本当に、本当に、ごめんな。パパが悪かった。ごめんな。