指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

言葉と現実のすき間。

どつぼ超然
帯に「(前略)世界を睥睨する町田文学の新境地。」とある。例によってそれは本編を全部読むまで見ないようにしてたんだけど、言われてみると確かに新境地という気がする。「真説・外道の潮騒」みたいにテーマがとてもはっきりした作品、また初期の作品を除くと、「告白」にせよ「宿屋めぐり」にせよ町田さんの長い作品にはどこかに時代劇の道具立てが配されていた。それがこの「どつぼ超然」や相次いで出た「人間小唄」のどちらからも払拭されている。作者がそれを禁じ手と決めたような印象がある。
そのことの意味を結構考えてみたんだけど、よくわからなかった。ただ時代劇の要素を失っただけで、町田さんの新境地だなこれは、という気は確かにする。
ただ、それより個人的に印象に残ったのは、言葉と現実のすき間を縫ってくねくねと展開される文体だった。言葉がある、一方に現実があって言葉と矛盾する、矛盾をフィードバックして言葉をやや修正する、それでも現実とは矛盾する、また言葉を修正する、みたいな運動がえんえんと続き、それが行ったり来たりのくねくねした感じを与える。そしてそのくねくねした道筋は語り手を幻想のような不思議な場所へ連れて行く。この場合、言葉は秩序のニュアンスを、現実は無秩序のニュアンスを帯びている。無秩序に対してできるだけごまかすことなく秩序を対置して行く、その手並みに表れる誠実さが、語り手の信条のように思われる。そして現実なら誰も持ち得ないようなその誠実さを推し進めると、その誠実さの度合いに見合った形で狂気と言うか不条理と言うか、そういう場所へ突っ込んで行くしかけになっている。その道筋がとても鮮やかに心に残った。
言葉と現実のすき間をさらなる言葉で埋めて行き、それが語り手の定点をずんずんずらして行く。それがこの作品での町田さんの方法のような気がした。