指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

たった二日間。

リトル・シスター
まず、すごく複雑にたくさんのことが起きているのに、そのほとんどがたった二日の間に凝縮されている。その時間軸の現在との違いに驚かされる。こういう時間軸を持った世界は、たとえばドストエフスキーの作品などにも共通している。密度の高い時間だ。その替わり、マーロウの行動範囲はそれほど広がりを持たない。この作品の都市小説のような印象はそこから来ている。マーロウがふと陥る孤独も、また都市のものだ。
解説や後書きはできれば読まないようにつとめているけど、村上さんとなれば話が別だ。二度繰り返して読んだ。それでこの「リトル・シスター」がフィリップ・マーロウものの中でも特異な位置を占める作品であることがよくわかった。「ロング・グッドバイ」や「さよなら、愛しい人」と比べると読みづらい。どんでん返しみたいな展開が何度もあるけど、その根拠がよくわからなかったりして物語に振り落とされそうになる。作者も言う通り本筋よりしゃれた言い回しが優先されたところもある。でも、初期の村上さんの作品に出て来る台詞のおおもとが、確かにここにあると感じられて読んでいて愉しい。そういうのは邪道なような気もするけど。でも結局村上さんが訳されなければチャンドラーを手に取ることはなかっただろうから、邪道だとしてもそれはそれで仕方ないことだ。
出張の行き帰りの新幹線の中で時間を気にせず、すごくゆっくり読んだ。そういう読み方をするのに、訳し直された昔の作品というのは打ってつけだという気がする。変に力を入れて読む必要が無いから。