指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

やっちゃいけないこと。

名もなき孤児たちの墓 (文春文庫) 中原昌也著「名もなき孤児たちの墓」
たとえば「洗練」という言葉を思い浮かべるとそういうことはまるで目指されていないように思われる。あるのは醜悪な自意識と、暴力、しかも女性とか幼児とかに対する暴力の衝動と、あまり一貫性の感じられない行動原理、それから妙に古くさい、持って回った言葉遣い。あと権威としての文学への反発、というのもある。書くことなんて無いし書きたくなんかないんだけど、それが仕事になっちゃったので仕方なく書く、というのもある。要するに(ひとつを除いて)徹底的に後ろ向きなものばかりだ。でもだからすごい絶望へ導かれているかと言うと案外そうでもない。どちらかと言うとそういう現状は語り手にとって別にどうってことないみたいだ。
もしかしたら作者は、やっちゃいけないことを思いつく限りやっちゃおうと思い決めてるのかも知れない。あるいは、やっちゃいけないこと、というのは、それをやる人がいて初めてやっちゃいけないと気がつくものであって、作者はまだ誰も知らない「やっちゃいけないこと」の第一発見者を自らの役割と心得てるのかも知れない。
やっちゃいけないことの羅列は、うまく裏返せば何か重要なことを指し示す気もする。もっとも、作者はもっとしたたかで、そんなわかりやすい方法など使う訳ありませんよ、とか言うかも知れないけど。