指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

見つけた。

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫) カズオ・イシグロ小野寺健訳 「遠い山なみの光
カズオ・イシグロの作品で個人的に読み残した最後の本はアマゾンではユーズドでしか出て来ずもしかしたら絶版なのかも知れなかった。(追記、その後、2011年4月30日付けで再版されたようです。)ゴールデン・ウィーク中も何度か最寄りのブックオフに家人と出かけたが、イシグロの作品など一冊も見当たらなかった。ウェブ上のブックオフでも出て来ずちょっと困ったことになったなと思った。せっかくここまで作品を追って来たんだから読んでおきたかった。
先週仕事でラゾーナ川崎に行った際あまり期待もせずに丸善の棚を探すと普通に見つかってすごく喜んで買って来た。新刊が出るまでイシグロの作品とはしばしのお別れだ。
浮世の画家」の語り手に似た人物が登場する。「浮世の画家」はここからスピンオフするような形で着想されより突き詰めた形でできた作品に違いないように思われる。でも本作でのそれより大きなテーマは子供を損なうということのような気がする。妊娠中の語り手は子供を損ないかねない友だちに違和感を持っている。でも結局は語り手も子供を損なうことになる。それはまるで予め約束されていたみたいな必然の感じをまとって作品の中に現れる。舞台は戦後の長崎で登場人物のほとんどは日本人だ。子供が損なわれて行くのは戦争のせいだろうか。いやそれ以上の何かがある気がする。
子供を損なうこと。子供を傷つけ取り返しようも無いほどにねじ曲げてしまうこと。親なら誰でもそれを恐れているのではないだろうか。でも以前にも触れたけど子供を育てるということは多かれ少なかれ子供を傷つけることだ。そしてその損傷の度合いが表面に現れるのはずっと後になってからだ。それは核家族化が進む中でのとても重要な問題だという気がする。
主人公には、遠い山並みの向こうに光が見えたのだろうか。だとしたらそれはなぜか、個人的にはそこまで読み切ることができなかった。