指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

おんなになる手前。

荒野―12歳ぼくの小さな黒猫ちゃん (文春文庫) 荒野 14歳 勝ち猫、負け猫 (文春文庫) 荒野―16歳 恋しらぬ猫のふり (文春文庫) 桜庭一樹著 「荒野」
自分からは読まないと思うけど貸してくれる人がいたので。女の子、荒野(こうや)の中学入学から高校一年くらいまでが描かれる。鎌倉が舞台で季節の移り変わりが美しい。
親との問題、友だち、恋、という道具立てを通して一貫して描かれているのは女の子がおんなになって行く過程だ。体と心ということで言えば体というのは心よりずっと機械的かつ強制的に大人になって行ってしまうものだ。でも心はそれほどまっすぐ効率的に大人になることができない。荒野の胸が他の女の子より大きいという設定がそのことを端的に描き出している。その体と心の育ち方の相違が矛盾となって物語の細部をつくり出している。
ひとつすごく共感したのは、荒野にとって恋とはいつまでもストレートに相手を好きでいられることという風に見なされていることだ。だから大人のどろどろの恋愛模様をうまく理解することができない。僕も同じ年頃まるで同じように思っていた。でも今荒野の恋を眺めているとそれを大人になるまで温め続けるのはちょっと無理なんじゃないかという風に思われる。まあそれくらいにはこちらも大人になったということかも知れない。あと、赤朽葉家でもそうだったんだけど、家と一体化するおんなという視点が気にかかった。今どきの考え方としてはちょっと古風なんじゃないかと思う。