指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

思いの強さ。

随筆集 一私小説書きの弁 (新潮文庫) 西村賢太著 「随筆集 一私小説書きの弁」
たとえば僕がある作家をどんなに好きだったとしても彼の作品の初出を掲載した雑誌まで古書屋で探そうとは思わない。またどれほど惚れ込んだ作品であってもその初版を何部も買い集めたりはしない。個人的には作品というのは読めればいいので、もちろん読み返したりすることも考えて好きな作家の作品はできるだけ買うけど、古本であろうがプロパー品であろうが文庫だろうがハードカバーだろうが新書だろうがそういうのはまったく意に介さない。初版かどうかということも同列だ。
そこからすると西村さんが藤澤芿造にこだわるこだわり方はふたつの方向に分裂して見える。ひとつはなるほどそこまで強い思いを抱けるからこそ没後弟子を名乗ったり全集を編纂したりできるんだな、という方向。菩提寺から位牌や墓標を預かったり、月に一度東京から金沢まで通ったりというのもすごい。この方向には西村さんに比べれば所詮自分の傾倒なんて大したものじゃないじゃないかという忸怩たる思いが含まれている。
でももうひとつの方向は、この人はまた単なるコレクターとしての一面も持っているんじゃないかということだ。もちろんどんな小さな作品でもそれを見過ごしたら全集にとっての傷になりかねないという理由はあるだろうけど、それを差し引いてもこの人はコレクターとして自立してしまう一面がある気がする。
この随筆集にもかなり周到に細大漏らさず記事を集めて編まれた感じがこもっている。個人的にはそのこととコレクターとしての一面が軌を一にしているように思われてならなかった。