指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

レイモンド・カーヴァーが読みたい!

頼むから静かにしてくれ〈1〉 (村上春樹翻訳ライブラリー) 頼むから静かにしてくれ〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー) レイモンド・カーヴァー村上春樹訳 「頼むから静かにしてくれ 1・2」
村上春樹 雑文集」に促される形でスコット・フィッツジェラルドカズオ・イシグロと読んでき来て、次はレイモンド・カーヴァー。初めてカーヴァーの作品を読んだのは少なくとも二十年以上前のことだと思う。中公文庫版の「夜になると鮭は・・・」を買って読んだ。そして残念なことにあまりぴんと来なかった。よくわからないというのが率直な感想だった気がする。
でも村上さんが訳しているのだからカーヴァーのことはもちろんずっと気になっていた。最近、割にどんな小説を読んでも自分なりの感想が持てるようになり恥ずかしながら47にもなってやっと少しは小説の読み方がわかって来たようにも思われ(錯覚でありませんように!)、それなら苦手だったカーヴァーにも手を伸ばしてみようと思い立った。
「People are strange when you are a stranger.」というのは「ノルウェイの森」で引用されていたのだったか。「頼むから静かにしてくれ」を読みながら何度もこの言葉を思い出した。カーヴァーの作品の中では読者は誰もがストレンジャーだ。でもそのことをしっかりと、骨身に沁みて知ることができればカーヴァーはものすごくおもしろく読めるようになる気がする。村上さんは解題の中で収録作「あなたお医者さま?」について以下のようにコメントしている。

(前略)それはカーヴァー・カントリーのカーヴァー・タウンの物語である。(後略)

言い方は違うけどほぼ同じようなことが言われているように僕には思われる。それほどカーヴァーの世界は独特であり不可解と言えば不可解なことも多い。あるいはわかるための手がかりがものすごく少ない作家と言ってもいいかも知れない。でも逆説的になるけど手がかりを探し続ける限りカーヴァーの世界はどんどん遠ざかって行く。わかろうとしなくていいのだ、ストレンジャーである自分に全部が全部わかるはずはないのだから。それでも作品から伝わって来るものがあったとしたら(それは確かにあるように思われる。)、その伝わって来たものに静かに耳を澄ませばいいのだ。それがカーヴァーの世界に近づく最も効率のよい方法であるように思われる。
そして、不思議なことにそれだけストレンジな世界に身を置きながらもふと登場人物の誰かに共感している、ということがある。こういう思いを自分もしたことがあると感じられるときがある。でもそれはむしろ重要なことではない。いや重要でないことはないんだけどそれは次のステップであり、まずは自分がストレンジャーだとしっかり自覚することが必要だ。繰り返しになるけどそれがカーヴァーをものすごくおもしろい作家にする。
 カーヴァーが読みたくてたまらない事態に自分が陥るなんて想像したこともなかった。少なくとも一週間前までは。