指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

「とりあえず」の力。

泣かない女はいない (河出文庫) 長嶋有著 「泣かない女はいない」
タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2)) 長嶋有著 「タンノイのエジンバラ

長嶋有さんの小説のファンなんだろうと我ながら思う。それは「ねたあとに」を読んだときにわかっていた。惹かれるところはいろいろあるけど、「とりあえず」が永続してしまう感じ、その気軽さと若干のだらしなさみたいなものがすごく心地いい気がする。でもその「とりあえず」はきちんと根拠を持っていたり、永続させるための努力がさりげなく払われていたりして、そんな律儀な感じも好きだ。たとえその「とりあえず」がいつかは失われるものだったとしても。
上に掲げた二冊の作品集に収録された六編の作品のどれにも、その「とりあえず」を感じさせる中心がどこかにある。これからもそれに着目して長嶋さんの小説を読むと思う。ちなみに「タンノイのエジンバラ」の解説を書かれている福永信さんの〈居心地の悪さ〉説は、なんだかとっても説得力があるように思われた。
僕より九こ下の作者がリアルタイムで楽しんだとは思えないんだけど、作中に登場するKISSの「ハードラックウーマン」は当時僕も大好きだった。KISSのドラマーがヴォーカルをとったとても珍しい曲だった憶えがある。