指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ひいきじゃなくて。

学習するのに特に障害がある訳じゃないのに成績が悪く勉強するのをいやがる生徒さんというのももちろんいる。女の子で学校ばかりか塾でも他の子について行けずどうすればいいんだろうと最初はかなり絶望的な気持ちになった。でもとにかくその子のためだけに時間を取って辛抱強く教えるしか手が無いんじゃないかというのがとりあえずの結論だった。とても幸いなことにその子は学校へも塾へも行くのをいやがるということがなかったので、お母さんと相談して週に一度その子を一対一で教える時間を設けた。それで文字通り手取り足取り教えてあげ数ヶ月が経つとだんだん問題が解けるようになる。一対一の授業がいいのはどんな小さな前進にも気づいてほめてあげられる点だ。最近では問題が解けるととてもうれしそうな笑顔を見せることがありこの時間を設けて本当によかったと思う。
中一の女の子にハロウィーンの飾り付けを手伝ってもらった話は書いた通りだけどそれを知った他の学年の女の子たちが自分たちもやりたかったと言い出した。どうしようかなと迷っていると、じゃあ先生片づけのときは手伝わせてねとなんかものすごいけなげなことを言うので今日教材を買いに行った先の近くの百均でまた少し飾り付けに使えそうなものを見繕って来た。女の子たちの間でシールの交換が流行ってるらしいのでハロウィーンのシールも配ろうと思ってついでに買った。前述の子との一対一の授業がちょうど今日で一時間一生懸命問題に取り組んでいるので本当は他の子たちと一緒に明日の授業の時間にあげようと思っていたそのシールをごほうびに一枚あげた。目を輝かせて眺めているので他の子には黙っててねと言うとどうしてですか、と尋ねる。君だけひいきにしてると思われるとちょっと困るんでね、と答えたんだけど、ひいきとかの話は別にしてその子と一対一の授業をしてるのを他の親御さんに知られたくないというのが本音だった。それは本当にその子にとって必要な授業なんだけどそのことを他の親御さんに納得させるにはその子がとても勉強ができないことに触れなければならない。僕としてはそういう事態だけは避けたかった。
ところでそのハロウィーンのシールなんだけどその後やって来たうちの子を含む男の子たちに欲しいか尋ねたら、そんな子供じみたものはいらないと一蹴された。