指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

好感が持てる。

謎とき村上春樹 (光文社新書) 石原千秋著 「謎とき 村上春樹
お前この手のものは読まないんじゃなかったのかよと言われると返す言葉も無い。新刊でもないし村上さんの最近の作品にも手が届いていず取り上げられているのは最も新しい作品でも「ノルウェイの森」止まりだ。でも立ち読みを始めたら引き込まれて即買い。江川卓さんの「謎とき 『罪と罰』」と読み方に共通するところがあるのがタイトルの由来とのこと。「謎とき『罪と罰』」の刊行は1986年ということで出たばかりのときに買って読んだ記憶がある。英語の「R」に当たる文字はロシア語では「P」と書くんだけど主人公のロジオン・ロマーノヴィチ・ラスコーリニコフの頭文字は「PPP」となり悪魔の数字である「666」が隠されているとか多少胡散臭いところも無いではなかったけどわかりやすいことは大変にわかりやすい本だった。同様に「謎とき 村上春樹」もとてもわかりやすい。学者の文芸批評にありがちな独特の言い回しもしていないし難しい言葉には注釈がついているしで大変に好感が持てる。おかげでアポリアというのが難題という意味だと初めて知った。
でも小説を読むということが本当に著者が言う通りのことなのだとしたら、読者の九割くらいは小説を読んでることにはならないんじゃないかという気がする。それは「謎とき『罪と罰』」を読んだときに感じた、それはそれでおもしろい話だけどだからなんなんだ、という思いと呼応している。筆者の言いたいことを何一つ知らなくても僕は村上さんの小説を愛読して来たし、これからもそうするだろうからだ。個人的に感じる村上さんの作品の魅力はこの本に書かれていることとはまるで別の場所にあるからだ。