指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

アイルトン・セナについて。

Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2014年 5/15号 [雑誌]
個人的には、アイルトン・セナが天才であったかどうかを問うことにさほど興味を抱かない。ただこれほど広く遠く深くにまで届く彼の魅力と、その割にはあまり知られていない彼の実像とのギャップが、ひとつの違和感として、あるいは謎として胸のどこかに引っかかり続けて来たことは確かだ。最後の恋人が書いたものなどセナにまつわる本もいくつか読んだけどうまく焦点が合った感じはしなかった。むしろ、言わばグッド・アイルトンとバッド・アイルトンといった二面性ばかりがより際だって行くように感じられた。亡くなってから随分時が経つしこの二分化したイメージが解消することはもうないものと諦めていた。
でもこの特集を読んで何かが腑に落ちた気がした。セナに対する多くの証言がまとめて読めたことが大きいと思う。もちろん彼らの言い分は様々だしセナに対する好悪にも証言者によって温度差があるように思われる。でもそれにも関わらず彼らの証言のすべてに共通していることがひとつある。それは誰もがセナに対してある種の畏敬の念を抱かずにはいられなかったということだ。ときに苦々しい表情で彼を語る証言者もそれだけははっきり認めている。ここから個人的に受け取れるのは以下のようなことになる。事実としておそらくセナには二面性があった。でもそれは大抵の人間と同じだということに過ぎない。より大切なのはあらゆる人間的な問題にも関わらず彼が多くの人の心を強く打ったということだ。その振動の強さが遠く離れた僕のところまで届いて来ていたのだ。
主義として雑誌は買わないんだけど今回は特例で買った。買ってよかった。