指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

仇討ちの価値。

平成猿蟹合戦図
たとえばさるかに合戦は仇討ちの話だ。作中の人物も言う通り仇討ちの話はスカッとする。そしてまた作中の別の人物が言うようにスカッとする話には毒が入っている。
村上龍さんの「愛と幻想のファシズム」から不吉な感じを払拭すると本作の文体になるような気がする。なぜ不吉な感じがしないかと言うと主要な登場人物のうちの何人かが若くて脳天気だからだ。仇討ちとその露見の可能性をいちばん太い横糸にして編まれて行くお話だけど縦糸は気のいい若者たちの、割に深くて律儀な絆の話だとも言える。そして作者が称揚してるのは後者のような感受性ではないかと思われる。ラストシーンから言ってもそれは明らかだ。仇討ちに価値はあるか。いや仇討ちなんて疲れるだけだよ。何ヵ所かこのリアリティーのつくり方でいいのかなと思ったところもあったけど吉田さんの小説はなにしろおもしろい。