指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

「ビアンカとフローラ、どちらがいいと思う?」

国民のコトバ
音声による応答システム「Siri」の反応を試すために筆者はそれが搭載された「iPhone4S」に向かってこんな問いかけをしている。ビアンカとフローラはドラクエ5に出て来るキャラクター。主人公はどちらかと結婚しなければならないんだけどその後のゲーム展開を左右する重要な決定のような気がしてどちらにするか結構迷う。同様に迷ったに違いない筆者とのささやかな接点が見つかってうれしかったということが言いたかったんだけど、書いてるうちにだんだんこのひと言は意外とこの本全体のテーマをうまく言い当ててる気がし始めた。つまりこの本で取り上げられている「ことば」は一般的にあまり広く流通しない特殊な「ことば」で、筆者はそれらをできるだけ平明に解説してることになるんじゃないだろうか。あるいはもっと言うとそれらの「ことば」が持つ特殊性を、もっと一般的な「ことば」の中に位置づけようとしてるんじゃないだろうか。そういう風に言うと、この本がどんな本か大体説明できているように思われる。
いろいろな「ことば」が収録されているけど個人的にいちばん強く筆者の本領を感じたのは「棒立ちな」ことば、「ケセンな」ことば、「クロウドな」ことば、の三本立てだった。「棒立ちな」ことばでは現代短歌が取り上げられていて、その生活実感に即した解釈がわかりやすくてすごくよかった。後のふたつの「ことば」は一見とても取っつきにくい。前者は東北の方言に翻訳されたイエスの「ことば」だし後者は真木蔵人さんのとても直接的な「ことば」だからだ。でも最初の取っつきにくさは著者の鮮やかな手並みですぐに解消され、それらが実はいかに優れた「ことば」なのかに驚かされることになる。それらは今まで知らなかった、より真実に近い「ことば」とでも呼べばいいのかも知れない。真実とは状態ではなく、筆者や筆者が取り上げる人々が常に見出し更新し続ける運動のことを指すのかも知れない。そんな運動が持っている迫力に直に手を触れられることが、この本が与える感動の根拠になっている気がする。すごく読んでよかった。