指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

バイト探しを始める。

まだ二十代初めの頃行きつけの喫茶店のマスターが、儲けるつもりなら初めから喫茶店なんかやらないよと苦笑混じりに話してくれたことがある。そうなのか、じゃあなんでやってるんだと思ったけど今僕もまったく同じことを、つまり儲けるつもりなら初めから塾なんかやらないよと苦笑混じりに言わなければならないのかも知れない。いつまで経っても収支が黒にならない。生活費まで入れると毎月決まった額が失われて行く。自己資金はとうに使い果たし、今は借金で生活している。ちなみに住民税は去年の所得があまりに低かったために免除されていて(「やよいの青色申告」が、収支がマイナスだけど大丈夫かと念を押して来たほど)、給食費など子供の中学校でのかかりも区からの負担を受けている。借金の利息も一部区から負担してもらっている。夏期講習の臨時収入もあったけど、でもそれらのいずれもが雀の涙と言っていいくらいの額だ。ただ塾からの収入はそれで暮らすには足りないとは言え毎月一定程度あるので、いいバイトが見つかればかなり状況を改善できそうだ。それで前にも一度バイト探しをしたことがあるんだけど今回本腰を入れて探すことにした。ただし午後は授業があるので午前から午後の早い時間までしか働けない。
自分でも接客に向いてるとは思わないのでひとりでこつこつできる仕事がいいなあと思ってサイトで探すと、ビルの清掃とかホテルのベッドメイキングとかが時給千円くらいである。一日五時間ずつ週に五日働けば月十万くらいになる。あと小学校の給食をつくる手伝いというのがあってこれは六時間拘束で一時間950円。一日六千円弱で週五日、月に12万くらいか。学校だから夏と冬と春は休みで仕事が無いのでそれぞれ午前中には講習も開けてそんなのもいいなあと思う。でも本命はやっぱ家庭教師で何しろ時給が高いから少しの時間できっちり稼げる。家から自転車で行ける距離のあっせん業者に登録してみた。なんかすごいわくわくする。新しい世界が広がる感じがする。もうすぐ齢51だけどね。
こういう言い方はあまりにかっこよ過ぎるかも知れないけど僕は自分の利益を何より優先させる生き方にサラリーマン時代からすごく違和感を抱いていたんだと思う。そういう生き方を選んだ人たちが必ず発散させている自己肯定のひどい匂いにもほとほとうんざりした。でも結果的にではあるけどあるところからそういう人たちとまったくつき合わなくてよくなった。再びそういう人たちと一緒に働く気が自分にはまるで無いこともよくわかった。大きな目で見れば塾の経営だって他の業者との競争という面をまぬがれないとは思うけど現時点で誰かと争って生徒さんを獲得してるという自覚は僕にはまったく無い。僕は自分の考えたニーズをできるだけうまく掘り起こせるように塾の形を整えそれを(割にそっと)差し出しているだけだし、大きな思い違いをしてるのでなければ生徒さんにも親御さんにもまあ大筋では喜んでもらってると思う。成績だって上がってる。彼らばかりでなく当の僕自身教えるのが好きだし教えていてとても楽しい。だからこの記事の最初の方とは見解が異なるけど塾の先行きに関してはほとんど悲観していない。少子化と言ってもこの辺りは逆に子供の数が増えてるというデータもある。ただキャリア一年ちょっとで経営的に軌道に乗ったとはとても言えないのが頭の痛いところだ。だから副業を探していてその仕事は競争原理からできるだけ離れていなければならない。
数ヶ月以内には、確実にバイトを始めていることと思う。働くこと自体は元々とても好きだ。