指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

最近引っ越して来たらしい。

家人と一緒に買い物から帰って来ると建物の前で学生服を着た中学生らしい男の子が立ちつくしている。今はテスト期間中で下校が早く午前中には帰って来るからうちの子かと一瞬思ったけど違った。それから二時間くらい経って塾に行こうと思って階段を下りて行くと同じ子がドアノブにバッグをかけたまま踊り場の窓から外を見ている。もう長いことうちの子以外中学生など住んでなかったので最近引っ越して来たものと思われた。それで鍵を持たずに学校へ行き、帰宅したら家族が外出していて部屋に入れないといったところかと推察された。だとすると昼食もまだだろうし明日もまたテストなのに勉強もできないことになる。さすがにかわいそうに思って塾から家人に電話しもしなんなら塾で待っていてもいいからと言ってくれるように頼んだ。家人は念のため大家さんに連絡を取ったけどつかまらないということで、本人にメッセージを書いてもらってドアに貼り付けた上でその子を塾に連れて来た。おとなしい子で何か食べるか聞いてもお腹が空いてないと答えるけど、そんな訳ないので家人が気を利かせて肉まんとジュースを買って来た。テスト勉強をしに来た中学生に混じって勉強しているとほどなくメッセージを見た親御さんから電話があり帰って行った。家人が家に帰るとその親御さんがお礼にと言ってお菓子を持ってやって来たということだ。善行というのは難しい。誘拐と間違われないようにとそればかりを気にかけていたんだけど幸いうまく行ってよかった。