指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

今さら下積み。

芸人さんなんかで売れないのでバイトしながらがんばったという話をよく聞く。そういうのを下積みと言っていいなら僕は五十代になって改めて下積みの生活を始めたということになるのかも知れない。本業が軌道に乗るまでのバイトと昨日書いたけど、それって正に下積みということだ。
前職には22年半従事していた。その22年半はなんだったかと言うと今となってはよくわからない。割に壮大な遠回りだった気もする。だいたい大学生のときにひとり暮らしのアパートで小中学生を集めてモグリの塾みたいなことをやっていて、自分が不思議と子供になつかれるし教えることも好きだということにはなんとなく気づいていた。バブル全盛期の超売り手市場だったので、予備校とか塾とかに講師として就職しようと思ったらできたんじゃないかという気がする。でもそんなことはまるで思いつかなかった。志望はマスコミで一年目の就活では大手テレビ局に受かったけど単位が足りなくて卒業できなかった。二年目はある出版社の最終選考に残ったけど結局は受からずにバイト先だった前の会社に正社員として入れてもらった。そのときだってやろうと思えば教育関連の企業に行くことはできたと思う。でもそうしなかった。どうしてだろう?
そうして長い遠回りが終わってハローワークに行くと自分が本当はどんなことに向いてるか、どんなことがしたいのか考えてみるように言われた。そう言われてやっと、ああ、僕は子供たちに教える仕事がしたいんだと思いついた。ずっとそうしたかったんだと。それから何社か講師の仕事に応募したけど大体は待遇面がひどかったしもっと若い人材の方が有利だったりして何ヶ月かで諦めて自分で塾を始めることにした。友だちに勧められたことも大きかった。そして今、何度か書いたように塾の仕事にやりがいと楽しさの両方を感じるし、これだけは辞める訳には行かないとも思っている。でも資金も底をついたので塾を続けるためにも副業をせざるを得なくなった。そういう状況って前にもちょっと触れたけど割に青春だよねと思う。自分のやりたいことがある。さすがに夢という言葉は恥ずかしくて使えないけどとにかくこれをやりたいと心から思える確かなものがある。でもそれでは暮らして行けないので生活のためのもうひとつの仕事をする。理想と現実。空の高みと地上の重力。その二重性がなんとなく青春っぽい。明日からバイトが始まる。青春くさい下積み生活が始まる。