指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

結局。

先々週の日曜は休むことができたので連続勤務記録は35日で終わった。今週も日曜は休んだけどだからと言って疲れが取れるかと言えばそうでもなくて昼寝まで入れると一日十二時間くらい眠ってそれでも体のあちこちが痛む。まあ仕方ない。この生活以外他に選びようもない。学校で教えるバイトはやはり予習に相当時間がかかる。一時間弱の授業に対して四、五時間はかかってるんじゃないだろうか。それでも授業自体の質を少しでも上げたいと思ってできる限りの準備をしている。この予習も考えようによっては今の生活にかなりのプレッシャーとなっているはずだけど、そう考えるとつらくなるのでとにかく勉強の機会だととらえて前向きに取り組むようにしている。問題の解法を考えることそのものは、知的で楽しい作業であることにも救われているかも知れない。
塾では毎日いろんなことが起きている。ハーマイオニーは割に内気な女の子だと思っていたけど最近は慣れて僕に対してもすごくリラックスして接してくれるようになった。そうなってみるともともと頭の回転の速い子なのでやたらに話しかけたり質問したりする。ただ、興味の対象にものすごく偏りがあってこの前の期末試験で体育の筆記試験の勉強をしに来ているときに発覚したんだけど、陸上のスターティングロックってなんですかと尋ねる。僕が知ってるのは陸上のスタート地点に置かれた足を引っかける金具のようなものだったけど、確かスターティングロックだったと思ってそうじゃないかと尋ね返すと、テキストで確認してから完璧主義の彼女にしては珍しく、そうでした、間違って覚えてましたと言う。その後も、陸上のゴールで胸を突き出し腰をひねらなければならないのはどうしてか、とか、野球のスパイクとは何か、とか、こちらとしてはそういうのは常識の範囲内の知識ではないかと思うようなことを矢継ぎ早に尋ねる。体育は実技が苦手なので筆記で点数取るより他ないんですけど、こういう知識ってどうすれば得られるんですかと言うので、君はスポーツ中継とか見ないの、と尋ねるとまったく見ないと言う。体育の筆記試験はたぶん中学だけじゃなく高校でもあるから、今後苦労したくないんだったらひと通りスポーツは見といた方がいいよと、おそらく彼女には無理だとは思ったけど力なくアドバイスしてみた。それでも数日後の筆記試験で百点満点中85点取るのが、彼女がハーマイオニーたるゆえんだ。国語の試験なんて100点だったそうでそれもものすごいと思う。