指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

片付いてゆく夏。

台風のせいもあるのかここのところめっきり涼しい。特にテーマは無く目の前のことを淡々と片付けながら生活している。朝早くからバイトに行き、たまに中学校の補習に講師として出向き、午後は塾で生徒さんたちの勉強を見る。夏休み全部を使って断続的に行われて来た夏期講習ももうすぐ終わる。少し変わったのは何人かの問題のある生徒さんが辞めて行き、代わりにほぼ同数の割に成績のよい生徒さんが入って来たことだ。なぜ最近よくできる生徒さんばかりが入って来るのかはわからない。あるいは一個人塾における生徒の質の変化として割に普遍的な曲線を描いてるだけなのかも知れない。あるいは何か未知の要素が現れ始めているのかも知れない。わからないけどできる生徒さんの方が教えていてなんとなく明るい気分になることは確かだ。滑らかな路面の上を性能のよい自転車のペダルを漕いで走り抜けて行く感じだ。軽やかで快適で充実している。
早朝のバイトから帰宅してお昼を食べると塾が始まる前までに時間があってたいてい昼寝する。そうしないと一日の睡眠が五時間くらいになってしまう。認知症の一因は睡眠不足とも聞いたことがあるしとにかく睡眠時間は確保するよう心がけている。家人は本になった作品の他にまだいくつか完成している作品があるみたいでそれらも出版したいと意気込みを見せている。元々外で働くのが向いてない人で独身の頃は個人経営の義父の会社で事務員をしていて純粋な意味で外に働きに出たことは無い。僕が失職してからはいくつかの働き口に応募したけど採用されずそれから本腰を入れて物を書くようになった。少しでも家計の足しになればと本気で思ったらしい。こちらも大した期待もしないでただ本人がよければいいと思って見ていた。バイトを始めてからは僕には余分な時間というのがほぼ無くなった上なにしろ馬車馬のように疲れるので家事の手伝いなんかも一切しないで週日は暇があれば眠っている。家人は家の仕事をすべてこなした上で黙々と仕事を続け、随分時間がかかったけどとにかくひとつのきちんとした形を残すことができた。家人も子供も僕自身もこの夏の終わりに収まるべきところに収まった気がする。それはこれまでとは一段違う場所でこれまで取り散らかっていたものがすっきりと片付いているどこかだ。随分見通しがよくなったそこから深まる秋を眺めることになる。