指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

掃除機を受け継ぐ。

Tさんの使っていた業務用掃除機が空いたので僕が受け継ぐことになった。何度か使ってみると三段階ある吸い込みの強さの最強を選んでも大して吸い込まないことがわかった。いろいろな人の掃除機を修理しまくったTさんだったけどそう言えば自分の掃除機を掃除しているところを見かけたことがなかったのでやってみることにした。経験的に言ってどの掃除機も中にフィルターがありそれを取り替えたり水洗いしたりすることによって吸い込みは格段に上がる。外から見ただけでは中の構造はまったくわからなかったけど同じ機種を使ったことがあるという古参の人につきそってもらってとりあえずふたを開けた。まずもうもうとほこりが舞い上がった。フィルターらしきものを三枚とゴムのパッキンをはずすとその下からごみを溜めておくスペースが姿を現し、満タンと言うほどではないものの八割程度の厚さにごみが溜まっていた。新聞紙を何枚か広げた上にそのごみをあけてから取り除いたフィルターを見るとプラスティック製の網のフィルターが二枚とウレタン製の柔らかいフィルターが一枚でどれも細かな塵にびっしりと覆われている。洗えるということだったので深いシンクに持って行って水をかけたらハンパない濃度で埃が舞い上がって息が苦しくなった。でも蛇口を全開に近く開けて我慢して水をかけ続けると渦を巻いて排水溝に流れて行く真っ黒な水が徐々に透明度を増して行く。ウレタンのフィルターはあまり力を入れるとちぎれてしまいそうなので柔らかく絞り、網のフィルターは一応目詰まりが見えなくなったところで軽く振って水気を切り詰め所にあった汚いバスタオルでさらに水分を拭き取った。それを棚の上に干して帰ったのが昨日のことだ。
朝の清掃は時間との戦いなので洗った掃除機のことはほっておいて今まで使っていた掃除機を持って現場に行く。それが終わってから干しておいたフィルターを見に行くとすっかり乾いていた。フィルターをセットする順番は覚えていなかったけどまあこんな感じかなと思いながら組み立てふたをして留め具を留めホースを差し込む。プラグをコンセントに差しておそるおそる本体のスイッチを入れると無事に動き始めた。吸い込みの加減を見ると最弱のモードでも掃除前の最強より強い。試しに最強のモードにすると今までこの職場で触れたどの掃除機よりも吸い込みがいい。古い方の一台も例によって電源コードの中で接触不良を起こし使ってるうちに勝手に電源が切れたり入ったりするんだけどTさんがいなくなってしまったので誰も直してくれない。そこで比較的電源が入りやすい角度でコードを固定してみたら使えるようになった。タイプの異なる掃除機を二台使い分けられるぜいたく。これで掃除機がけは格段に楽になるだろう。そんなことがやけに気分を明るくする。前の会社を辞めてはや丸三年。生活や価値観は想像もつかないほどに変わって行く。