指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

上とか下とか。

昼田とハッコウ

昼田とハッコウ

この作者の作品を読んでいてもうひとつ気にかかるのは、たとえばこの作品で言えば「上から目線」とか「下に見ている」とかいった言葉に表れる上下関係だ。これは最近相次いで読んだ「私の中の男の子」にも「ニキの屈辱」にも「世界は二人組ではできあがらない」にも色濃く表れている。それに違和を感じるのは少なくとも個人的には異性との間で上下関係というのをあまり意識しないからだ。好きになった方が負けとか言うけどふたりの間で思いが通じ合った後というのは特に上下関係というのは感じない。生活の上での役割分担というのはあるけどそれは上下関係ではない。社会に出てお金を稼いでるから自分が上だという風にも思わないし、最近は家人が仕事を始めて本なんか出せてすごいなとか、生活が楽になって助かるなとかは思うけどそれで自分を卑下する気も起きない。でも人は相手との上下関係を瞬間瞬間で無意識にはかりながら生きているものなんだろうか、と自問すると、もしかしたらそういう面も無いではないかも知れないという頼りない結論にたどり着く。個人的にそこにそれほど関心が無いだけの話かも知れないし、これは今後も考え続けたい。
四兄弟でひとりだけ出自が微妙と言うと「カラマーゾフの兄弟」が思い出される。で長男鼓太郎をドミートリー、次男ハッコウをイヴァン、三男瞳をアレクセイ、出自の異なる昼田をスメルジャコフに見立ててみようとしたけど、得られるものは大して無い気がした。「カラ兄」ではイヴァンが父親殺しに最も近い存在で、その意を汲む形でスメルジャコフが実行犯であるように書かれている。それに似て本作ではハッコウと昼田の関係が深いが、どう考えても父親殺しの主題とは関係なさそうだ。・・・無いよね、たぶん。
それ以外にふたつの観点から大変興味深く読んだ。ひとつは自分も書店営業をやってたことがあるので、本の売り方や書店のあり方というものを結構まじめに考えた経験に照らして。特に書店の棚づくりや平台の構成などについては、鋭い考察がたくさんあって興味が尽きなかった。あと、売り上げを示すスリップがたくさんあるととてもうれしいこととか、コアなところで共感した。
もうひとつは舞台がほぼ吉祥寺と特定できて土地勘もあるし親近感を抱いた点。駅前にできた「書籍一番」はまんまブックファーストのことだし、伊勢丹の跡地にできたのがコピス吉祥寺で中に入った書店はジュンク堂のことだろう。吉祥寺のジュンク堂立ち上げには仕事で少しだけ関わったし、その頃のことが書かれていてなんだか懐かしかった。超個人的な読み方なんだけど。