指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ぎりぎりの危うさ。

珍妙な峠

珍妙な峠

冒頭を読むと「バイ貝」とかすかにつながった続編だと思えるけど「年の瀬の濁流」に飲み込まれたあたりから「バイ貝」の地平を離れ、異界とも取れる「珍妙な峠」の世界に語り手ははまり込んで行く。そこはほとんど夢のような感触を持つ世界だ。どこまでも薄暗くぼんやりした空気の中、唐突に転換して行く風景、時空。そこで展開されるのは、語り手が抱く思惑のことごとくが裏目に出る物語だ。そのでたらめで不思議な感触は、これまでにもしばしば目にして来たこの作者ならではのものと思われる。本当の夢はおそらくもっとシュールで珍妙なはずだがそこに最低限の形を与えることによって物語はできあがっている。物語として成り立つか、荒唐無稽で成り立たなくなるかのぎりぎりのところが目指されているように思える。もしかしたらその危うさこそがこの作品のいちばんの魅力なのかも知れない。そしてその危うさはなぜかとても悲しいものを含んでいて、それもまた読む者を惹きつける大きな要素となっている。