指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

かわいい子には。

高校の二学期が終わった日午後11時過ぎの夜行列車で子供が大阪に向かった。新幹線だと高いので夜行列車の指定席を取り切符は青春18きっぷを買って行ったらしい。目的は将棋の故村山聖さんのおうちとかよく行った定食屋とかそういうものをめぐることだったようだ。子供が将棋に興味を示すようになったのは高校に入ってからでまだ一年に満たない。その中で村山さんの何かに強く惹かれたらしくDVDで映画を観たり本を読んだりしている。翌日の午前8時頃大阪に着き同日午後11時過ぎに名古屋を出発する夜行に乗って帰って来る。東京に着くのは午前5時頃と言う。家人が最初にこの計画を聞いたとき判断しかねて僕に尋ねるように子供に言った。でも僕はこれを聞いて即座に許可した。高校生が何かに強く惹かれるのは当たり前のことだしそれがなんであれ当人にとってはとても大切なことなのだから妨げる訳には行かない。家人は驚いたらしく、後で死ぬほど心配しないでよねと釘を刺した。もちろん心配はするけどカメラ片手に戦地に赴く訳でなし、一日半で帰って来る旅なのだから高校生にだってできないことはないだろう。僕も初めてひとりで東京へ来たときは高一だった。高一の僕にもとても大切なものがあった。
それで詳しいことは知らないけど予定通り早朝無事に子供は帰って来た。夜行ではまあまあ眠れたそうだけど疲れたのかシャワーを浴びてから朝食を食べるとすぐに眠ってしまった。子供がどんな冒険をし何を手に入れたのか僕にはわからない。でもそれが子供にとって必要だったことはわかる。帰りの夜行に乗ったとラインで知らせて来たとき、「ゆっくり帰っておいで。行ってよかったかい?」と尋ねると「良かったです」「また来れればなと」と返って来た。「また行けるよ」「おやすみ」と返した。
僕がバイトに出かけた後起きた子供は青春18きっぷの残りを使ってひとりで鎌倉へ出かけたと家人からラインが来た。なんかユニークな子になったなと思う。そして本当に大きくなったなと思う。