指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

天丼いもやが閉まる。

ウェブではもうかなり有名な話題のようだけど天丼いもやが今月いっぱいで閉まることになったそうだ。結婚してから家人と一緒に初めて行ったのが八年前の三月だったとこのブログを検索してわかった。途中一年以上休業してる間がありそのあと再開の喜びがあった。再開してからかぼちゃの天ぷらが増えたような気がする。あとはえびときすといかとのりの天ぷら。いかが本当においしい。初めてこの店を訪れたのは予備校に通ってる頃だと思うので十八だったことになる。三十六年前だ。大学に入学すると神保町からは足が遠のいたので家人と一緒に行くまで二十年以上行くことはなかった。神保町はもう自分にとっては後にして来た町だという思いがあった。そういう区切りをつけたくなるほど浪人から大学生になることは自分にとって大きなことだったのだと思う。だから家人がたまたまおいしい天丼が食べたいと言い出さなければいもやのこともことさら思い出さなかったはずだし足繁くとまでは行かないまでも月に一遍か二ヶ月に一遍かというペースで通うこともなかったに違いない。そしてもしそうだったらこの店を惜しむ今の気持ちもきっとなかったはずだ。
一昨日三省堂書店に教材を買いに行く用があったのでいもやにも立ち寄ってみた。いつもは午前11時半頃行くんだけど行列がいつもより長いという噂を聞いたので用心して11時の開店前に店に着くようにした。すでに十人ほどのお客さんが並んで待っていた。あとでわかったんだけどカウンター席は全部で十一で、家人と僕は十番目と十一番目だったので開店と同時に座ることができた。気のせいかも知れないけど僕たちはお店の人に覚えられているような気がする。天ぷらを揚げる長身のお兄さんが「天丼ですか。」と独特のイントネーションで尋ねるときにわずかにほほえんでくれるように見える。まあ今は閉店間近のせいで女性客も多いけど普段は女性は珍しいし、必ず夫婦で来る客というのも珍しいかも知れない。
三月も半ばまで来てしまった。あと二週間でもう二回行けるか、一回か。最終日はどんなに混むんだろうねと家人は言うけどそれは本当に想像がつかない。