指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

誰かに喜んでもらえれば、私だってうれしい。

手塚治虫さんの「ブラック・ジャック」で確か主人公がそんなことを言っていた記憶がある。
昨夜仕事を終え塾のドアの鍵を閉めて帰ろうとすると、自転車に乗った男の子と背の高い女の人が近づいて来た。暗くてわかりづらかったけど男の子は最近塾に入った小学生に見えた。塾に入るときに一緒に来た父親は何も言わなかったけどその後自分から実はある種の学習障害があると話してくれた。漢字は読めるけどほとんど書けないらしい。算数も得意な分野は得意だけど極端に苦手な分野もあるように見受けられた。でもそれほど扱いにくい生徒さんとは思えなかったし、僕になんとなくなついてくれているような気がした。
女の人が話しかけてきて母親だと言った。それから勉強の進み具合などについて少し立ち話をした。近くまで来たらこの子が塾の先生を紹介すると言ってくれたんです、と母親は言った。そんなこと言ってくれたことは今までないのですごくうれしかったんです、きっと本人なりにはとてもこの塾が気に入ってるんだと思います。すごくまっすぐな言葉だと思った。この人はこのことで心から喜んでいるんだと信じられた。そんな風に誰かに喜んでもらえれば、僕だってうれしい。この仕事を始めて本当によかった。