指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

愛だけでは無理。

卵を産めない郭公 (新潮文庫)

卵を産めない郭公 (新潮文庫)

お互いにとても愛し合っていたとしてもそれだけでは一緒にいることができない。そういう彼女というのがかつて僕にもいた。どうしてそうなるのか自分でもすごく不思議だったんだけど慢性的に諍いが絶えなくて心の底から疲れ果ててしまい結局別れることになった。それからしばらくしてフランソワ・トリュフォー監督の「隣の女」という映画をテレビでたまたま見た。自分が通ってきたのと同じような愛を扱った映画で驚いた。コピーは「離れていたら狂ってしまう。一緒にいたら燃えつきてしまう。」離れていることも一緒にいることもできない男女を描いた悲しい幕切れの作品だった。こういう男女がかつての自分たちの他にもいるんだとひどく感慨深く思った。
「卵を産めない郭公」も同じ系列のお話として受け取ることができると思う。ひどくエキセントリックな女の子だ。語り手はそのエキセントリックさのために彼女を愛し(そこにはかなり複雑な心の動きが秘められていたが)結局はそのエキセントリックさ故に彼女にうんざりしてしまう。でもおそらく彼女が彼に求めたのは自分を理解してもらうことではなかった。他人に理解してもらうには自分がエキセントリック過ぎることを彼女は充分自覚していた。そして彼女の方は語り手を絶望的に愛していた。だから彼女は彼女なりに語り手に懸命に譲歩しようとしているように見える。自分が自分であることで彼に迷惑をかけてしまうことに傷つき困惑しながら。その姿が本当に悲しかった。
この作品の彼女ほどではないにせよ別れた昔の彼女もかなりエキセントリックだった。そして一貫して自分を理解し受け入れることを僕に求めていた。結構努力したけど結局そういうことはできなかった。初めからできる訳なかったんだけどそれができると錯覚するほど愛というものを信じていたのかも知れない。