指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

軽い文体のアメリカの小説。

アリバイ・アイク: ラードナー傑作選 (新潮文庫)

アリバイ・アイク: ラードナー傑作選 (新潮文庫)

何歳くらいのことか覚えてないけどもしかしたら高校生とか中学生までさかのぼるかも知れない、文庫の最後に収録されている既刊のタイトル一覧を読むのがとても好きだった。こんなにたくさんの本があるんだと圧倒されながらタイトルから内容を想像してみる。その中にこの「アリバイ・アイク」もあった。子供の頃推理小説を割と読んだのでアリバイが何を意味するかは心得ていた。だからおそらくこれは推理小説だろうと想像したのを覚えている。それから実際にこの本を手に取るまでにいったい何年かかったろう?村上柴田翻訳堂で再版されなかったら読むことは一生なかったに違いない。
全部で十三編収録されていてどれもとてもおもしろいお話だ。文体は軽く自在で勢いがあるので最後まで一気に読むことができる。この前の「呪われた腕」のイギリスっぽさととても対照的なアメリカっぽさが感じられる。特に野球を題材にした何編かはアメリカでなければ書かれることはなかっただろうし、読まれもしなかっただろう。もうひとつの特徴は一人称で書かれた作品が多いことだ。中でも話体と言うか語り手が読者を相手に直接話しかけているかのような文体が多く見られ、たぶん今ではあまり流行らないんじゃないかと思うんだけどだからかえって新鮮に感じられた。ちなみに表題作の「アリバイ・アイク」は想像してたような推理小説ではなくて野球に関する小説。個人的にはすごく楽しく読んだけど野球のルールをひと通り知らないと楽しめないと思います。高橋源一郎さんは「麻雀放浪記」を傑作だとおっしゃるんだけど僕は麻雀を知らないので読めない。それと同じです。