指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

どこかもの悲しい。

僕の名はアラム (新潮文庫)

僕の名はアラム (新潮文庫)

「わが名はアラム」のタイトルで晶文社から出ていたことは知っていたし晶文社独特の立ち位置からして名作なんだろうなという気はしていた。でも読んだことはなかったし手に入らなくなっていることも知らなかった。村上柴田翻訳堂はとりあえず全部読もうと決めたから読んだので、そうでなかったら他の作品の多くと共にこの作品も読むことはなかったに違いない。おそらくユーモア小説ということになるんじゃないかと思うけど読後感はどこかもの悲しい。それはアメリカに移住してきたアルメニア人の一族のお話ということばかりではなく、祖父、伯父(叔父)、いとこ、といった基本的に身内の話しか書かれていないところから来るように思われる。身内というのは多かれ少なかれまずは愛しいものであり、そして愛しいもののふるまいは見ていてどことなく悲しいんじゃないかという気がする。この辺はあまりうまく言えそうにないんだけど身内を相手にするとき独特の、愛しさ故の悲しさとでも言うべきものがある。特に彼らの多くが華々しい成功を収めている訳ではない場合には。ユーモラスに描こうとしているのに結果的にどこかもの悲しいというのがこの作品の特質のように思われた。一編一編に一枚ずつ挿画がつけられてるんだけど描いているのはドン・フリーマン。記憶に間違いがなければ「くまのコールテンくん」など数々の絵本の作者だと思う。それらも味わい深くてよかった。