指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

救うから救い出されるへ。

救い出される (新潮文庫)

救い出される (新潮文庫)

一人称小説。主人公の微細な心の動きの描写に驚かされる。でも実際の心というのは本当にこんな風に時々刻々細かい動きをしているように思われる。ほんの少し状況が変わるだけで目まぐるしく変化を続けているように思われる。少なくとも僕の場合はそうで、だからとてもリアルな作品だと思った。もうひとつ、悪のテーマがある。旅はおそらく何も無かったとしても困難なものになっていたはずだが突如現れる悪の存在によってその様相を一変させられる。なぜこんな悪がなされなければならないのか、その根拠は本当にささいなものでそれだけにかえってグロテスクだ。と同時におそらく誰もこの悪から逃れられないだろうと感じさせる、普遍性のようなものを備えている。語り手はその悪から自分たちを救うために戦いを始めるんだけどタイトルは「救い出される」。「救う」がなぜ「救い出される」に反転しているかはよく考えないとわかりづらいかも知れない。