指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

愛と幸せと資本主義。

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)

フィッツジェラルドの短編集はいくつか読んだけど本国で発行されたものをそのまま一冊訳したというのを読むのは初めてなんじゃないかと思う。フィッツジェラルドについて書かれたものをちょっと読めばすぐわかるけどこの人の短編は玉石混淆ということになっている。だから質のよい短編だけを集めた日本版のアンソロジーみたいな形が一般的になってるのかも知れない。でもそれぞれの質はどうあれできるだけ多くの作品を読みたいという読者も相当数いるんじゃないかと思うしだとしたらこの翻訳は貴重なものになるはずだ。
全部で九編が収録されている。稀なケースをのぞけばそこに登場するのは美しい女とその貧乏な、あるいは裕福な恋人(たち)もしくは夫だ。そして全員がそれぞれの幸せを割と貪欲に追い求めている。そのせいで美しい女と彼女を愛する男たちは時に対立する。美しい女たちは男に裕福さを要求することが多いようだ。岡崎京子さんの「pink」の帯に「愛と資本主義」という忘れがたいコピーがあったのを思い出す。フィッツジェラルドの短編では愛と幸せは資本主義ととても密接に結びついている。それは時代の寵児となり一世を風靡しながら妻ゼルダと共に没落していった作者の生(なま)の価値観がどうしてもぬぐい去れないかのようだ。でもいくつかの作品は美しい、哀しい幕切れを持っている。これこそフィッツジェラルドの作品だとそのとき思う。いくつかの短編は他の短編集でも読めることを付記しておく。