アメリカ文学史の旅のこれが第一歩。時系列で言うと
エドガー・アラン・ポーを先に読むべきだったみたいだけど
文学史なんてこれまで一顧だにしていなかったので多少のミスはご勘弁ということで。ポーも近く読む予定。
1850年に刊行されているんだけど、その時点を一応の「現在」とするとその80年前にある税関の審査官が老人たちから、その老人たちが若い頃にはすでに年老いていた女性について
聞き書きしたお話、という正に「
薔薇の名前」的
入れ子構造になっていて驚いた。
エーコがこの作品を読んでいなかった可能性はほぼ無いと思うのでだとしたら「
薔薇の名前」の着想の元はここにあるかも知れない。それはさておき作者にとってのこの構造の意味は、おそらく事実とは解釈なのだという主張にある気がする。物語中にも事実に対する解釈の多様性についてはっきり述べているくだりがあるし、それは作者が強く意識していることのように思われる。
文体は古風な心理小説の面があるけど思うほど読みづらくはない。そしてすごくおもしろい。途中までは一種の謎解きとして読むことができるしその後の展開も興味をそらされない。ただし版によっては多少内容が異なる可能性があるのかも知れない。この「完訳」版に限って言えば大変お勧めです。