指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

過剰と極限。

黒猫・アッシャー家の崩壊 ポー短編集? ゴシック編 (新潮文庫)

黒猫・アッシャー家の崩壊 ポー短編集? ゴシック編 (新潮文庫)

六編が収録されている。どの作品にもある種の極限状況が描かれていると言っていい。その極限状況を招いているのは登場人物たちの精神的な過剰さだ。時に自意識であったり、愛憎であったり、生への執着であったり、暗く病的な感受性であったり、どの人物も過剰さを抱えそこから逃れられなくなっている。だから物語は、想像力を駆使した思考実験の様相を帯びる。舞台の設定は周到だ。そのきっちり設定された舞台上で過剰を抱えた人はどのように心を動かすのか、そのような知的好奇心が作者の創作の源泉のように思われる。「黒猫」はいつ読んだものかお話をとてもよく覚えていたが、語り手の過剰が飲酒によるものであることには個人的にいささか身につまされるところがあった。それと「ウィリアム・ウィルソン」はドッペルゲンガーと言うより二重人格の方が近いように思われた。