指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

移り変わる「本当」を求めて。

小説かと思ったらほぼエッセイと言うか考察。作者は最近考察を小説で書いたり小説を考察で書いたりしている。でもそれは詩のような小説でデビューしたこの作者には似つかわしいのかも知れない。テーマをひとことで言えば移り変わる「本当」を求めて、ということになる。それもまたこの作者のいつもの姿勢だ。「本当」は移り変わって行く。時間と共に、あるいは時間の中で生起する様々な出来事と共に。特にこの作品に色濃く影を落としているのは「あの日」、つまり2011年3月11日だ。
なので初出は古く2012年までに書かれたものの集まりだ。それらを集めて今一冊の本として出す意味が今ひとつわからないんだけど作者としては何か思うところがあるのかも知れない。なんだか読んだことのある章も個人的には含まれていた。もうひとつ個人的なことを言えば戦後文学というのには確かにあまりなじみがない。椎名麟三埴谷雄高だけは結構読んだけどそれはドストエフスキーに影響を受けた日本の作家という理由があったからで、戦後文学の一翼を担った作家という意味ではなかった。太宰治も読んだけど明らかに戦前から活躍していた作家だし。武田泰淳とか野間宏とか敬して遠ざけていた感が強い。それがなぜなのかちょっと考えてみたいと思った。