指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

いきなりステーキ。

 いつだったかわからないけどそう遠くない前に、立ち回り先と言うかある駅を中心とした割とよく行く繁華街にいきなりステーキの店ができたらしい。僕は知らなかったんだけど家人は知っていて先週食べに行きたいと言った。ちょっと意外な気がした。ステーキが食べたいと言うなんて結婚してもうすぐ二十年になるけどたぶん一度もなかったことだからだ。でもまあどちらかが何かをしたいと言ったらそれがなんらかの意味合いでとんでもないことでなければとりあえずするというのが暗黙のルールみたいになってるので(今までふたりが合意した中でいちばんとんでもなかったのは妊娠と出産と幼稚園へ上がるまでの子育てだった。)行ってみることにした。僕は特にここ一年くらいめっきり食べる量が減っていて何かを食べたいと思うことがあってもほんの少し食べれば充分だ。たまに外食してセットメニューなんか注文すると量が多すぎるんだけど絶対残してはいけないという母親の教育が強固に身を縛っているので全部食べて後で苦しい思いをする。子供と一緒のときはたいていかなりの量を食べてもらう。いきなりステーキではランチメニューを注文した。ステーキの量は選べるのでいちばん少ない200gにしてライスは普通盛り、それにサラダとスープがつく。ステーキには付け合わせとしてご飯茶碗小盛り一杯分くらいのコーンが載っているが、これはオニオンやブロッコリなど他のものと交換することもできる。それで税込1200円ちょっとなので安いと言えば安い。ただ普通盛りのライスは僕にはやはり多くて200gのステーキと一緒だと命からがら食べ終える形になった。はっきりと、若い人たちの食べ物だと思ったけど周囲の席には男女合わせて年配のお客さんも結構見受けられた。家人も同じ量を食べて全然余裕のようでステーキを食べると元気が出るなんて言っている。僕は後でどれほど後悔することかと思いながら店を出た。食べ過ぎたときの胸焼けや胃の痛みは僕の場合数時間後に始まる。それで戦々恐々と待ってたんだけど何時間経っても胃はなんでもない。確かにお腹は夜になっても全然空かないけど胃には何の問題も起こらない。すごく不思議だ。今日また家人が食べに行こうと言うので行った。家人は肉を300gに増やしてライスは小にした。僕は200gのままでライスはなし。ちょうどいい気がした。夜になっても胃に痛みは来ていない。
 今月末に家人は締め切りを控えている。でもいつもほどはテンパってないようだ。普段は長いと一週間くらい外食やコンビニ弁当が続くこともある。もちろんそれで全然構わないんだけど今回は手抜き、手抜きと言いながらも子供のお弁当もつくるし、三食の用意もしてくれている。主に景気とスタミナを両方ともつけるためにステーキが食べたいらしい。ただ家人の好みが変わったのは確かなように思われる。それともこれまで二十年間、稼ぎの悪い旦那に遠慮し続けてきたんだろうか。