指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

オフコースの「Yes-No」をもう四十年近く聴いている。

 オフコースのベスト盤からさらにお気に入りだけを抜き出してまとめたCDを生徒さんを待ちながら塾で聴いていたら子供が高校から帰ってきた。直にうちに帰る場合も塾に寄って勉強してから帰る場合もある。「Yes-No」がかかったので思いついてこれはパパが高二の時に流行った曲だよ、もう四十年も聴いてると言うと今聴いてる曲を四十年後も聴いてるか自信ないなと言う。そうかも知れないけど本当に好きなら四十年後も五十年後も聴くんじゃないかなと思ったけど口には出さなかった。高三にとって四十年なんて永遠とほぼ同義だろう。
 その夏はオフコースの「Yes-No」と長渕剛の「順子」がとても流行っていた。親友のSSと共に安宿に泊まりながら三週間にわたって駿台予備校の夏期講習を受けていた。市ヶ谷校舎の窓から強い西日が差し込んでいたのをとてもよく覚えている。四十年後のことなんて何も考えてなかった。ただ東京の大学に入りたいとだけ強く強く思っていた。もしかしたらそれこそ人生最初で最大の誤りだったんじゃないかという気もするけどそうは考えないようにしている。確かに今の暮らしはきついけど大切なものもあるから。