指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

行ってみることにした。

 この前面接に行ったバイト先から中一日で返事が来て採用ということになった。仕事の内容とか就業時間とか時給とか考え合わせてちょっと迷ったんだけどとりあえず行ってみることに決めた。なんと言っても近いことと前にも書いた通り環境がすばらしいことが大きな魅力だ。高く立派な門を抜けてイチョウ並木を歩いて行くと木々に囲まれた古い建物群の奥にその職場は建っている。一階はショップで二階は食堂。どちらに配属されるかはまだ決まってない。
 そのバイト先を含む施設全体はそこに属さない人にはなかなか入れないしまた入る必要もないところで僕は今度の面接までに二度しか門をくぐったことがなかった。一度目は初めてできた彼女ともう三十年以上前に。(そのときは、後年その近くに住むことになるなんてもちろん想像すらしてなかった。)二度目はまだ小さかった子供のためにある用事があって。そういう意味では自分とは基本的に無関係ながら妙なつながりを持つ場所と言えば言えるかも知れない。すぐそばにはバス停がありそれがうちから最も近いバス停なこともあってその高い門の前はよく通る。個人的に桜も好きだけど紅葉の方がもっと好きなので毎年イチョウが色づくのを楽しみにしている。去年はなんだか紅葉のピークが例年より遅かった気がした。暖冬の予兆だったんだろうか。今年の初冬は紅葉真っ盛りのイチョウ並木の下を白い息を吐きながら歩けるかも知れない。それまでバイトが続くかどうかわからないけど今から心待ちにしている。