指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

ずっしり来る。

 実はこれまで読み返して来た中でもこの「海辺のカフカ」がいちばんわかりにくい作品なんじゃないかという気がする。長大で複雑に入り組んだ「ねじまき鳥クロニクル」でもこれよりはずっとわかりやすかった。父を殺し母(本作では加えて姉)と交わるというオイディプスのお話がまずよくわからない。それはいわゆるエディプス・コンプレックスとは無関係だと作者が強調してるのを読んだことがあるけど個人的にはそれを知ったところであまり参考にはならない。ストーリー上の数々の不思議な出来事はそのまま受け入れるにしても主人公や重要な登場人物の心の動かし方がどうもクリアに伝わって来ない。でも、そうでありながらこの作品の読後感はこれまで読み返した中で最もずっしりしたものだった。ナカタさんというキャラクターがものすごく良くて考えてみるとこの人は相当かわいそうな人でその行動のひたむきさに感情移入して涙が出たりしたけど、読後の感動はそれとも少し違ったところから来ている気がした。とにかく現時点でこの作品がいちばんいいと思う。ただむずかしい作品なので、それで「少年カフカ」のような本が後から刊行されたのかも知れない。それから幼なじみが恋人になるとその絆は何より強いという作者の思いはここでも踏襲されている。
 この作品の前に読んだ「スプートニクの恋人」についてはいつか触れられたら触れたい。