指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

夜と少女。

 今回読み返した村上さんの多分短篇の中に人の話に耳を傾けながら自殺する唖の青年を描いた小説が出てきた記憶があるんだけど正にこれがその作品だった。夜と少女の組み合わせというイメージが「結婚式のメンバー」を思わせる。そしてここにいるその少女は本当に生き生きと描かれてると思う。音楽に関する感受性の鋭さは作者の伝記的な事実と重なってるかも知れない。でも個人的に惹かれたのはそこだけだった。訳者があとがきで言うように主要な登場人物は孤独でありそこには出口というものが見つからないのかも知れない。でもそれに心を打たれるということは少なくとも僕にはなかった。ドストエフスキーの「悪霊」に出てくるピョートル・ヴェルホーヴェンスキーに似てるなこの人は、とかそういうことを思っただけだ。だとしたらその挫折は先験的に運命づけられてる気がした。あと黒人の医師の姿は図らずもタイムリーに見えるかも知れない。僕は訳者の言う「若い人」にはもう入らないと思うけどこの作品に打たれるには何かが決定的に足りない。